糖尿病の前には、メタボリックシンドロームが見られることが多い

前回に続きストライヤー生化学 第7版  p746
からの記事になります。
(リンクや色文字そしてカッコにより補足しました。一部原文と異なりますので、原書をご確認ください。)

糖尿病の前には、メタボリックシンドロームが見られることが多い

エネルギーの恒常性にかかわる重要な因子がわかったところで、インスリン抵抗性とⅡ型糖尿病の生化学基盤を考えてみよう。
肥満は、Ⅱ型糖尿病に至る道筋で初期に現れる症状の一つ、インスリン抵抗性をもたらす要因の一つである。
実際、インスリン抵抗性、高血糖、脂質異常症(トリアシルグリセロール、コレステロール、低密度リポタンパク質の血中濃度が高い)といった一群の状態は一緒に生じることが多い。
このような病態が集積した状態をメタボリックシンドローム(metabolic syndrome)と呼びⅡ型糖尿病の前兆と考えらえている。
肥満の結果、トリアシルグリセロールの摂取量が脂肪組織の貯蔵容量を超えてしまう。そのため、他の組織、特に腎臓と筋肉に脂肪が蓄積するようになる。理由は本省の後の方で説明するが、こうして脂肪が蓄積すると、インスリン抵抗性、ひいては膵臓の機能不全につながる。
筋肉と膵臓のβ細胞に的を絞って話を進めよう。

筋肉の過剰な脂肪酸が代謝を変化させる

脂肪が細胞の燃料として重要なことは、これまで何度も述べてきた。肥満の場合筋肉で処理できる量を超える脂肪が存在する。
ミトコンドリアでは高濃度の脂肪に対応してβ酸化の速度が上昇するものの、この脂肪酸すべてをβ酸化で処理しきれず、脂肪酸がミトコンドリアに蓄積し、やがては細胞質へとあふれ出す。
実際に、全部を処理しきれないと脂肪酸は再びトリアシルグリセロールに取り込まれ、細胞質に脂肪が蓄積する。細胞質では、ジアシルグリセロールとセラミド(スフインゴ脂質の成分の一つ)も増加する。
ジアシルグリセロールは、プロテインキナーゼc(PKC)を活性化する二次メッセンジャーある。PKCを始めとするSer/Thrプロテインキナーゼは、活性化されるとIRS(insulin receptor substrate)をリン酸化し、IRSのもつインスリンシグナルの伝達能力を低下させる。セラミドやその他の代謝物は、グルコースの取り込みとグリコーゲンの合成を阻害する。
それはPDK(phos- phoinositide-dependent kinase)とPKB(プロテインキナーゼB)を阻害するからで、その結果が食餌誘導性インスリン抵抗性である。

筋肉のインスリン抵抗性が膵臓の機能不全を悪化させる

過剰栄養は膵臓の機能不全にどのような影響を及ぼすのだろうか。
この問題が重要なのは、膵臓の主要な機能が、血中のグルコースの存在に応じたインスリンを分泌することだからである。これをグルコース応答性インスリン分泌(glucose-stimulated insulin secretion)(GSIS)という。
実際、膵臓のβ細胞は実質的にはインスリン製造工場である。
プロインスリンmRNAは膵臓の全mRNA(messenger RNA)の20%にもなり、一方、膵臓で合成される全タンパク質の50%はインスリン前駆体であるプロインスリンである。
グルコースはグルコース輸送体GLUT2を介して膵臓のβ細胞に入る、前にも述べたが、GLUT2は血中にグルコースが多いときにだけグルコースを輸送するので、インスリンが分泌されるのは、食後などのようにグルコースが豊富にあるときに限られる。
β細胞は、細胞呼吸と呼ばれる過程でグルコースをCO2とH2Oにまで代謝しATPを生産する。その結果ATP・ADP比が上昇すると開いていればk+を細胞外へと流失させる働きをするATP感受性k+チャンネルを閉じる。そうして細胞内のイオン環境が変化するとCa2+チャンネルが開き、流入したCa2+の働きでインスリンを含む分泌小胞が細胞膜と融合し、インスリンが血中に放出される。
つまり、グルコース代謝によるエネルギー充足率の上昇が、膜タンパク質の働きによって生理的応用(インスリンの分泌と血液中からのグルコースの除去)へと変換されるのである。
過剰栄養が続くと、最終的にβ細胞のどのような機能が損なわれ、インスリン抵抗性が本格的なⅡ型糖尿病へと移行するのだろう。

前述のように、
正常な状態にある膵臓のβ細胞は大量のプロインスリンを合成している。
このプロインスリンは小胞体内で折りたたまれ、加工されてインスリンとなり、分泌用の小胞へと入れられる。
筋肉でインスリン抵抗性が生じると、β細胞は、インスリンを働かせようとさらにインスリンを合成するという無駄な努力をする。

そのため、プロテインとインスリンすべてを処理する小胞体の処理能力が損なわれて小胞体ストレス(endoplasmic reticulum stress)〔ERストレス(ERstress)〕と呼ばれる状態になり、折りたたまれないタンパク質や誤って折りたたまれたタンパク質が蓄積する。

小胞体ストレスが細胞を守るためのUPR(unfolded protein response)またはストレス応答と呼ばれるシグナル伝達経路を開始する。UPRは数段階から成っている。
〇まず、それ以上タンパク質がERにに入って来ないように、タンパク質合成全体が抑制される。
〇第二にシャペロン合成が促進される。シャペロンとは前に説明したように、他のタンパク質の折りたたみを助けるタンパク質である。
〇第三に、誤って折りたたまれたタンパク質かがERから取除かれ、その後プロテアソームに運ばれて破壊される。

最後に、もしも、ここで述べたような応答でERストレスが軽減できないと、アポトーシス(積極的、機能的細胞死)が誘発され結局は細胞死が起こり、本格的なⅡ型糖尿病につながる。

Ⅱ型糖尿病の治療とはどのようなものだろう
実際は、ほとんどが行動面に関する治療法で、糖尿患者へは、エネルギー摂取が消費を上回らないようカロリー計算をすること、野菜、果物、穀類の多い食事をとることと有酸素運動を十分にするようにとといったアドバイスがなされる。

これらの治療指針は、健康な生活を送るための指針と同じで、Ⅱ型糖尿病のための特別な治療には、血糖値を監視して、これが目標範囲内(3.6~6.1mM)に収まるようにするという方法がある。ここで説明したようなな運動療法、食事療法で血糖値を適正に維持できない場合は、薬物療法が必要になる。
膵臓の機能不全の場合にはインスリン投与が必要になる可能性もある。また、AMPKを活性化するメトホルミンによる治療が有効な場合もある。

Ⅰ型糖尿病の代謝異常は、インスリンの不足とグルカゴンの過剰によって起こる

次に、Ⅰ型糖尿病について考えよう。
Ⅰ型糖尿病では、膵臓のβ細胞が自己免疫によって破壊されるために、インスリンの生産が不十分になる。そのためインスリン/グルカゴン比が正常レベルよりも高くなる。
突き詰めて言うと、この型の糖尿病患者は、血中グルコース濃度が高いにもかかわらず生化学的には飢餓状態なのである。
インスリンが欠乏しているのでグルコースの脂肪細胞や筋細胞への取り込みがうまく行かない。肝臓は糖新生、ケトン体生成の状態に固定されてしまう。
糖新生状態の特徴は、グルコースが過剰に生産されることである。
インスリンに比べて相対的にグルカゴンが過剰になるため、肝臓での解糖を促進し、糖新生を阻害するフルクトース2,6-ビスリン酸(f-2,6-BP)量が減少する。すると、6-ホスホフルクトキナーゼとフルクトース-1,6-ビスホスファターゼに対するf-2,6-BPの相反した効果のため解糖が阻害され糖新生が促進される。
要するに、インスリンの欠乏に対する細胞の応答が、血中のグルコース濃度をさらにさらに上昇させる。
また、糖尿病患者ではインスリン/グルカゴン比が高いため、グリーコーゲン分解も促進される。そのため、肝臓で過剰量のグルコースが生産され血中に放出される。血中グルコース濃度が尿細管の再吸収容量を超えると、グルコースは尿へと排出される。〔これがmellitus(密のように甘い意)という名の由来である〕。グルコースとともに水分も排出されるので、治療を受けていない急性期の糖尿病患者は、空腹とのどの渇きを感じる。
インスリンが欠乏して糖質利用がうまく行かなくなるため、脂質とタンパク質の分解が制御できなくなり、ケトン体生成状態になって、β酸化によって大量のアセチルCoAが生成する。
しかし、このアセチルCoAの大半は、縮合反応に必要なオキサロ酢酸が不十分なためクエン酸回路には入れない。
哺乳類は解糖で生じるビルビン酸からはオキサロ酢酸を合成できるが、アセチルCoAからは合成できないことを思い出してほしい。
その代わりにケトン体が生成するのである。

糖尿病の際立った特徴は、利用する燃料が糖質から脂質に替わることである。グルコースはどんなに豊富にあっても見向きもされないのである。ケトン体が高濃度になると、腎臓の酸塩基平衡維持能力の限度を超えてしまう。

治療していない糖尿病患者は、血液のPH低下と脱水によって昏睡になることもある。
面白いことに、Ⅱ型糖尿病患者では、糖尿病ケトアシドーシスはめったに問題にならない。肝臓や脂肪組織での過剰な脂肪分解を十分に妨げる程度のインスリン活性はあるからである。

Ⅰ型糖尿病にはどのような治療法があるのだろう。
カロリー計算、運動健康的な食生活など、Ⅱ型糖尿病治療の行動指針の多くがⅠ型糖尿病にも当てはまる。同様に、血糖値の監視もしなくてはならない。
生きていく為にはインスリンの投与が必要である。

※ここまで掲載してきての感想です。

糖質制限の理解ができていないようです。
ストライヤーの生化学 第7版 の別のページでは糖質制限に理解を示している個所もあります。
版を重ねるごとに糖質制限に対する理解度は上がってきているように思います。
(ストライヤー生化学  8版 英語版が出ているようです)

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追記

以前江部先生のブログに投降した記事です。

『16/03/15 オスティナート

カロリー恒常性と肥満

江部先生こんにちは、

今回の投稿、肥満に関連して、ストライヤーの生化学からカロリー恒常性と肥満について、抜粋して投稿します

最後に「肥満と戦うために、食事療法がおこなわれる」で低糖質高タンパク質食についての記述がありました。
全1101ページの中のたった12行ですがやっと糖質制限に関する記述を発見しました。
版を重ねるごとに、もっと増やしていってもらいたいものです。

【ストライヤーの生化学第7版 東京化学同人 742p・743p・744p

●レプチンとインスリンはカロリー恒常性の長期的な制御を行う

数時間から数日という尺度でエネルギーの恒常性を調節する重要なシグナル分子が二つある。
脂肪細胞から分泌されるレプチン(leptin)と、膵臓β細胞から分泌されるインスリン(insulin)である。
レプチンはトリアシルグリセロールの貯蔵状況を知らせ、インスリンは血中のグルコース量、すなわち糖質の供給状況を示す。

中略

●レプチンは脂肪細胞が分泌する数種類のホルモンの一つである。

●レプチン抵抗性は肥満の要因になる可能性がある

レプチンが体の脂肪量に比例して産生され、食べるのを抑制するのだとすれば、なぜヒトは肥満になるのだろう。
肥満したヒトでもほとんどの場合は、正しく機能するレプチンをもち、その血中濃度も高い。
レプチンの食欲抑制効果に対応できないことを、レプチン抵抗性(leptin resistance)という。
レプチン抵抗性の原因はなんだろう。

中略

よくわかっていないが、最近得られた証拠が示すようにサイトカインシグナル抑制因子(suppressor of cytokin signaring)(SOCS)と呼ばれる一群のタンパク質がかかわっているらしい。

中略

SOCSがレプチンの抵抗性にかかわっている事を裏付ける証拠は、POMC発現ニューロンから、SOCSを選択的に欠損させたマウスの研究で得られた。

中略

◎肥満と戦うために、食事療法がおこなわれる。

現在我々は肥満の蔓延とそれに関連した病気に直面しており、
どのような食事療法で最も体重を減らせるかが関心の的になっている。

一般に、カロリー摂取を調節しようとして行われる食事療法は大きく分けて二つある。

低糖質食と低脂肪食である。

低糖質食では普通、タンパク質の摂取を奨励する。

食事療法の効果の研究は非常に手間がかかるが、低糖質高タンパク質食が体重減少にもっとも効果的であることを示す証拠が増えている。

詳しい理由は不明だが、二つの説が広く言われている。

第一に、タンパク質は脂肪や糖質よりも満腹感を得やすいらしい。

第二に、タンパク質は脂肪や糖質に比べて消化するのに多くのエネルギーが必要で、エネルギー消費の増加が体重減少につながるという。

たとえば最近の研究で、タンパク質30%の食事は、タンパク質10%の食事よりも消化に必要なエネルギーが約30%多いことが明らかとなった。

タンパク質の多い食事がエネルギー消費を促進するしくみ、満足感を亢進するしくみは、まだわかっていない。

食事の量を減らして、運動量を増やせば、すべてに当てはまる。]

最後の食事誘発性熱産生DITまたは特異動的作用SDAについては
江部康二著「糖質制限パーフェクトガイド88p」が解り易く参考になりました。
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-category-106.html

厚生労働省のサイト e-ヘルスネット
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-030.html

こんばんは。

オスティナートさんから、ストライヤー生化学に記載してある「肥満と戦うために、食事療法がおこなわれる」について、貴重な情報をコメントいただきました。ありがとうございます。

オスティナートさん、高価な本をご購入され、肥満に対する糖質制限食の有効性についての記載を発見していただき、重ねてありがとうございます。

ストライヤー生化学 (第7版)は以下の如く、最新の知識が取り入れられていて
2013/02/22が、出版日です。

ストライヤー生化学 (第7版)
J. M. Berg  J. L. Tymoczko  L. Stryer 著
入村 達郎  岡山 博人 清水 孝雄 監訳
出版社 東京化学同人
本体13,900円+税

内容説明
監訳者のことばから:かつて,生化学の興味の中心は,代謝であり,“ストライヤー生化学”もその過半をこの代謝の記述に当てているが,本書の大きな特徴は,最新の分子生物学,細胞生物学の成果をいち早く取入れ,分子の構造と機能とに視点をおいて各領域の生命現象を論じ,解説している点である.今回の改訂では,代謝の全体像が最新の情報に基づいて見直され,また遺伝子調節の生化学的側面の解明が急速に進んでいることを受けて記述が増えている.新しい実験技術についても,最新の生化学研究における重要性を意識して詳しく述べてある.

『今回の投稿、肥満に関連して、ストライヤーの生化学からカロリー恒常性と肥満について、抜粋して投稿します。

最後に「肥満と戦うために、食事療法がおこなわれる」で低糖質高タンパク質食についての記述がありました。
全1101ページの中のたった12行ですがやっと糖質制限に関する記述を発見しました。
版を重ねるごとに、もっと増やしていってもらいたいものです。』

オスティナートさん。
同感です。

代謝の全体像が最新の情報に基づいて見直されたということで糖質制限食に有利な記載につながったのですね。

『低糖質食では普通、タンパク質の摂取を奨励する。

食事療法の効果の研究は非常に手間がかかるが、低糖質高タンパク質食が体重減少にもっとも効果的であることを示す証拠が増えている。

詳しい理由は不明だが、二つの説が広く言われている。

第一に、タンパク質は脂肪や糖質よりも満腹感を得やすいらしい。

第二に、タンパク質は脂肪や糖質に比べて消化するのに多くのエネルギーが必要で、エネルギー消費の増加が体重減少につながるという。

たとえば最近の研究で、タンパク質30%の食事は、タンパク質10%の食事よりも消化に必要なエネルギーが約30%多いことが明らかとなった。』

低糖質高タンパク食が体重減少に効果的であることを示す証拠が増えているとは嬉しいですね。

タンパク質が、満腹感を得やすいとのことですが、確かに、本ブログでもよく取り上げている有名な「DIRECT」というニューイングランド・ジャーナルに掲載されたイスラエルの研究があります。
Iris Shai et al. :NENGLJ MED , VOL359.NO.3 :229-241,2008
322人を
1)脂肪制限食(カロリー制限あり)
2)地中海食(カロリー制限あり)
3)糖質制限食(カロリー制限なし)
の3群に分けて2年間経過をみたものです。
その結果、糖質制限食は、カロリー無制限だったのに
自然に、脂肪制限食、地中海食と同じだけカロリー摂取が減って
結局3群とも同カロリーとなったのです。
そして結果は、糖質制限食が一番体重が減って、HDLコレステロールも一番増えたのです。

カロリー無制限なのに、自然に摂取カロリーが減ったのは、糖質制限食群では満腹感が得られやすかったからと思われます。

糖質制限食群では他の2群に比し、タンパク質の摂取比率は一番増えていました。

同様に、ストライヤー生化学で述べているように高タンパク食だと、食事誘発性熱産生DITまたは特異動的作用SDAが増加して消費エネルギーが増えることとなり、体重減少に有益です。

江部康二

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